台湾では日本のポップカルチャーが大人気だという。今日も
w-indsのチケットが台湾で23分で完売したというニュースが目を引いた。日本びいきの若者たち、 哈日族とはなにか、日本のなにが台湾の若者にうけているのかを歴史的背景とからめてある程度まとめられている。著者は台湾在住の30代フリーライター。エピローグで述べているように、本書は社会学的に客観的な統計データを挿入しようとした結果、台湾の大学院生の修士論文からの引用が多く、著者の独自の観点からの考察はそれほど多くなく、中華圏文化に興味がある者からみると正直いって物足りない。しかし、注目すべき記述はある程度見られる。
台湾の若者の日本ポップカルチャー好きはドラマからはじまったという指摘は興味深い。いわゆる「トレンディドラマ」「ポストトレンディドラマ」が90年代前半にケーブルテレビで放映されるようになり、日本の役者、音楽、生活、そのほか諸々が親しまれるようになったという。 そして哈日族は一時的なブームで終わるかとおもいきや、10年以上も続いている。
本書では2001年の台湾での韓国ドラマブームにも触れている。さらに、今後アジアの各地が流行発信源となり、ポップカルチャーが相互に流通するようになる可能性も述べられている。
首をかしげざるを得なかったのは、台湾発ポップカルチャーについて、『台湾のポップカルチャーが日本でも受け入れられることもあるのであろうか』というくだりである。エピローグの章は2004年の4月に書かれている。2004年10月の日本の状況はといえば、台湾発のポップグループが表紙の雑誌が一部地域で品薄になっているんである。2003年10月に「流星花園」のメールマガジンははじまっている。著者は、その気配を感じることはなかったのだろうか。そもそもこの台湾発ポップグループをみるがために台湾へわたった日本人は、2001年の初舞台の時点からいる。
もっとも、首をかしげざるを得ないのは、私がふつうの日本人よりも中華ポップカルチャーに親しんでいるからである。一般的な、メディアがターゲットとする日本人からすれば、中華圏のポップカルチャーはまだまだ視野の範囲外という状況なのかもしれない。
また、『台湾ドラマはしばしば「女性の献身、貞節、忠誠」が強調されて古くさい』という記載もある。だとしたら、2001年の『流星花園』はかなり画期的だったのではなかろうか。先日のNHKの中国語講座で朱考天が答えていたように、なにもかもが新しかったのかもしれない。
残念ながら本書では『流星花園』についての記述はない。台湾のドラマで若者にうけたドラマとしては、本書ではサスペンスドラマ一作が挙げられている。この日本のコミックを原作とする傑作ドラマがなんで抜け落ちるんだ、と疑問に思ってしまうのはただの迷だからだろうか。
ある国にいても、その国の大衆にうけているもの、話題になっているものは案外目につかないのかもしれない、と、私の個人的な経験から思いもする。興味の範囲外のものは抜け落ちてしまう。所詮インテリのお客さんなのである。
『流星花園』以前の台湾のテレビドラマが、本書が述べているようにお寒い状況だったとしたら、台湾ドラマブームが日本を席巻するのはかなり厳しいだろう。日本で話題になっているのはF4関連のドラマばかり。これだけだと、いずれ底をつく。F4以外の台湾のタレントが日本人の心をとらえるかどうかもポイントだろう。
もっとも、台湾だけでなく大陸まで含めた「漢流」ブームの可能性はなきにしもあらずだが。
『 哈日族 -なぜ日本が好きなのか-』
酒井亨 著 光文社新書 2004年5月 700円